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【新連載】startup studio update #1
スタートアップスタジオとは何者か。

「未来のビジネスを生み出すことにこだわるスタートアップスタジオ」

quantumを説明する言葉として、一番よく使う言葉だ。
大企業やスタートアップ企業との共同事業開発、社内起業家育成プログラムの実施、また、自社発の新規事業開発も含め、quantumは組成以来、数多くの「未来のビジネス」の創出に携わってきた。

スタートアップスタジオは、シンプルに言えば「次から次へと事業を生み出していく、スタートアップ作りの工場」だ。quantumでよく使う説明の仕方をここでもするならば、ハリウッドの映画スタジオがそこに集結したプロフェッショナルの力を使って続々と映画を生み出すように、スタートアップスタジオもそこに集った様々な職能を持つプロフェッショナルの力や資金を使ってスタートアップを続々生み出していくということだ。
前の映画をヒットさせたチームがまた結集して、演者を変えて新しい映画を作ったり、前回の反省を踏まえてよりヒットする作品を作ったりするように、スタートアップスタジオも一つの事業を生み出して終わり、ではなく、スタジオ内に事業作りの経験と知見を貯めながら次の事業創出へと向かっていく。

とはいえスタートアップスタジオにも、スタジオごとに様々なタイプや得意分野があり、また、絶えず未来のビジネスを生み出し続ける、“未来に一番近いところにある業態”であるという性質上、その常識やトレンドも日々アップデートされていくもの。

そこでquantumでは、新規事業を生み出し続けるスタートアップスタジオという業態と、その最新事情を知っていただくために、数回に渡ってスタートアップスタジオに関する連載をお届けすることにした。

テキストは、quantumの代表 高松のchief of staffであり、GSSN(Global Startup Studio Network:世界から厳選されたスタートアップスタジオが集まるコミュニティ。昨年夏、quantumは日本のスタジオとして初めてこのコミュニティに参加)においてGSSN Leadersの一人として活動する大橋勇太によるもの。
おそらく、いま日本でもっとも世界のスタートアップスタジオ事情に詳しいひとりである、弊社大橋によるレポート。ぜひご一読ください。


#1 Buildし続けることで、未来を生み出していく。スタートアップスタジオとは改めて何者か。

いきなりですが、このメッセージ、みなさん見聞きしましたでしょうか?

▶︎ IT’S TIME TO BUILD

筆者はPodcastが好きで、a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)のプログラムをSpotifyでフォローしているのですが、コロナで世界中が大変な状態にあった今年4月21日にa16zのMarc Andreessen(名うてのベンチャーキャピタリスト)が配信したこれを聞いて、おお!と思いました。アメリカ人としての視点で話されたメッセージで全部聞くと12分ぐらいありますが、最後の締めがこれです。

>>There is only one way to honor their legacy and to create the future we want for our own children and grandchildren, and that’s to build.

先人がつくり上げてきたものを敬いながら私たちの子どもや孫に残すべき未来を生み出す唯一の方法、それこそが「Build」である、と。彼のメッセージのどの部分をどう受け止めるかは人それぞれですが、今こそ「Build」すべき時だという、彼の体重の乗ったメッセージに筆者は共感しました。
Mediumでもスタートアップスタジオ関係者がそのメッセージに反応している様子を見て、そうだよね、と納得しました。なぜならスタートアップスタジオはこれまでも「Build」し続けてきたから。今回はそんな投稿です。

新規事業に関わっていたり、あるいは興味を持たれているみなさんであれば、この2,3年でスタートアップスタジオとは何か、という説明を見聞きする機会も増えてきていると思います。ですので、すでにご存知の情報もあるかもしれませんが、今回から数回にわたってスタートアップスタジオの話をしていくので、ここでは、quantumが参加しているスタートアップスタジオコミュニティGSSN が昨年発行したホワイトペーパー「The Rise of Startup Studios」や、スタートアップスタジオのメンバーがMediumに投稿している内容から一部引用する形で、スタートアップスタジオに関する説明をしていきたいと思います。ちなみにこのホワイトペーパーはGSSNメンバーの一社が中心に執筆し、最終的にはGSSNが編集したものです。


i. スタートアップスタジオとは

GSSNでもこのように定義しています。

>>In other words, startup studios are factories that produce startups. In exchange for human and financial capital, studios retain a portion of the equity in the companies they create.
(「The Rise of Startup Studio」より)

意訳を挟みますが、要はスタートアップスタジオとは、まるで「工場が製品を製造していく」かのように、次から次へとスタートアップを生み出していくスタートアップの工場であるという定義です。そして主なビジネスモデルとしては、スタートアップを生み出すために投下した労働および資金の対価として、生み出したスタートアップの株式の一部を保有する、というものです。


ii.スタートアップスタジオのビジネスモデル

具体的には、スタートアップスタジオが連れてきた起業家と、アイデア、ネットワーク、資金、スキルやノウハウを結集させて、プロダクトの開発検証を繰り返し、その後、スピンオフさせる形でスタートアップを設立(スタジオは株式を一部保有)。その後生み出されたスタートアップは、スタジオからは一定の独立性を維持する形で外部の資金も取り入れながら成長し、スタートアップの企業価値が高まった段階で、スタジオは何らかの形でExit(保有株式を売却)することで利益を獲得する、というのが一般的なビジネスモデルです。

「The Rise of Startup Studio」より

iii.スタートアップスタジオと、似たプレイヤーとの差異

株式売却による投資利益獲得を前提にすると、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターと似ている、と感じる方もいるかもしれません。これからは業種の垣根もますます消えていくと思いますが、スタートアップスタジオと、似たプレイヤーとの違いを示したのが以下のグラフです。あくまで一般化した内容ですので、当然スタートアップスタジオによってはScalingにも関与するケースもありますし、逆にVCでも立ち上げ初期から起業家と併走するケースもあると思います。

「The Rise of Startup Studio」より

要はスタートアップスタジオは、「課題の発見」や「定義」という初期の段階から起業家と伴走していくということで、スタートアップスタジオは起業家にとっての「Co-Founder」であり「Founders behind Founders」であるとも言えます。
quantumでも「Be a Founder」というスローガンを創業期から掲げていますが、スタートアップスタジオはこの「Found」するという行動に高い価値があると考えています。

実際、スタートアップスタジオの文脈では「Entrepreneur」よりも「Founder」という単語がよく登場します。これは「Zero to Exit」という考え方が根底にあるためです。このテキストの冒頭でMarc Andreessenのメッセージ「IT’S TIME TO BUILD」を紹介しましたが、ゼロから立ち上げるという意味では「Build」≒「Found」と言っていいと思います。

実際、最も成功しているスタートアップスタジオの一つと言えるAtomic( Atomic – We found and fund companies)は「We Found and Fund companies」や「Co-Found with us」というメッセージを打ち出しています。
ちなみにAtomicはPeter ThielとMarc Andreessenが初期に投資家として入っています(なのでオフィスはFounders Fundの近く)。
そして実はウェルネスD2Cブランドのユニコーン「Hims」やCo-livingを手掛ける「Bungalow」の創業者がAtomic(パートナーのAndrew Dudum)であることを知っている方は多くはないのでは。
ユニコーンまたはユニコーンクラスのスタートアップの裏には、スタートアップスタジオが存在している、ということです。

Atomicのステイトメントを見ても明らかで、次のような言葉が並びます。

「未来は見つけるものではなく、つくるものである(だから自らスタートアップを生み出す)」
「VCだがVCではない。Investorであると同時にCo-Founderである」
「VCのようにピッチを受けない」
「アクセラレーターのようにアプリカント(応募者)を受け付けない」

Atomicのコーポレートウェブより

パリを拠点とするスタートアップスタジオeFounders共同創業者のThibaudが2015年にMediumで示したチャートもわかりやすいかもしれません。
成長初期フェーズのスタートアップに対する価値の提供を、縦軸を労働時間、横軸を資金量として示したものです。要は、スタートアップスタジオは資金も出すがそれ以上に「創業期から関わり続けて汗を流すのだ」というものです。

「Startup Studios: The Rise of Human Capital」より

iv.スタートアップスタジオにも違いがある

世界には現在200以上のスタートアップスタジオがあると言われていますが、各社が試行錯誤しながら自社にとって最適な運営を模索しています。例えば以下のような論点が挙げられます。

-エンジニアやデザイナー等のギルド機能を内製するのか、外部と連携するのか
-スタジオの運営資金はどうするのか(キャッシュフローを回すために受託業務を行うのか)
-立ち上げるビジネスの業種やバーティカルを絞るのか
-事業のアイデアは外部から調達するのか、内部でのみ生み出すのか
-スタートアップ立ち上げ時にスタジオと起業家の出資比率の方針はどうするのか
-資金調達はどこまで関わるのか

などなど。

quantumはと言うと、株主は法人1社(博報堂100%)、40名ほどから構成されるギルド機能は内部で抱え、業務受託をするケースもあり(venture-builder-as-a-serviceと表現するスタジオもあります)、業種や領域を絞らず、事業アイデアの源泉は内部からも外部からも(QINUDEF. [éf] のような自社事業立ち上げも行う一方で、Panasonic長谷工コーポレーションといった大企業との共同事業も実施)、等の特徴があります。

事業アイデアの源泉はどうするのかという問いはスタートアップスタジオ界隈でよく議論されることではありますが、例えばeFoundersの共同創業者であるQuentinは一例としてこのように整理しています。

「Sidecar funds, corporate vehicles, club deals: how do startup studios get financed?」 より

このチャートの向かって左の「Internal Ideation」とは、まずスタジオ内でアイデアを温め、その後にそのアイデアを事業化して牽引してくれる起業家を探しにいく、というプロセスを指します。その対になる「External Ideation」の代表格として、コピーキャット(あるいは人真似猿)としての批判を受けたこともある「Rocket Internet」を「Execution Engines」と表現しているのもおもしろいなと。
ちなみにこのRocket Internetは2014年に上場しており、定性的な情報だけでなく財務数値も確認できるので興味がある方はご覧になられると良いかと思います。

さらに、スタートアップスタジオとしてどういう法人形態を選択すべきかという議論もよくなされています。こちらもeFoundersのQuentinがわかりやすく且つ詳細に説明していますが
(Launching a Startup Studio: How to Finance it?)
大きく分けると3つあると考えられています。

(a)スタートアップスタジオがGP(ジェネラルパートナー:無限責任組合員)となるファンドモデル。運営資金はマネジメントフィーから調達し、成功報酬としてキャリーを獲得する。Atomicはこれに該当。
(b)スタートアップスタジオがホールディング会社化するモデル。eFoundersはこれに該当
(c)ファンドも運営し、且つホールディングス化するaとbのデュアルモデル。Human VenturesやHigh Alphaなどこれを採用しているスタジオが多い印象です。

さらに詳しい法人形態の分類やそのPros/Consに関してはeFoundersのJohnが投稿しているので、興味のある方はぜひこちらをご覧ください。
▶︎ Understanding Startup Studio Structures - FutureSight


v.データで見るスタートアップスタジオ

GSSNは定期的にスタートアップスタジオ各社にデータサーベイを行い、その結果を全体で共有することで、ベストプラクティスの理解促進を図っています。今年、その第一弾の調査結果が発表されました。詳細に関しては非公開なので共有できないのが残念ですが、ごく一部のデータは公開(「2020 GSSN Data Report」 )されていますのでそこからいくつかご紹介したいと思います。

GSSN加盟のスタートアップスタジオ中の23社と、限られた母数に対する調査ではありますので、あくまで参考情報としての扱いです。紫色は調査に参加した23社全ての平均、黒色は設立が2017年以降のスタジオ9社の平均、緑色は設立が2016年以前のスタジオ14社の数値を示します。

・スタートアップ設立時の平均出資比率。
全体平均でスタートアップスタジオは36%、スタートアップの起業家/CEOは47%。

「2020 GSSN Data Report」より

・これまでスタートアップスタジオから生み出されたスタートアップの総数
全体で415社。女性による起業はそのうち40%。

「2020 GSSN Data Report」より

・スタートアップスタジオが生み出したスタートアップのポートフォリオのバリュエーション
※各スタートアップスタジオの、そのスタジオが生み出したスタートアップの中で現在も株式を保有するスタートアップの評価額合計
全体の平均値で$148M。全体の中央値で$47M。

「2020 GSSN Data Report」より

あくまで、スタートアップスタジオの輪郭を知るための参考程度と考えていただければ幸いです。

今後より個別具体的な世界のスタジオのトレンドに話を進めていくため、連載初回となる今回は「スタートアップスタジオとは改めて何者か」、スタートアップスタジオという業態の理解に繋がるような内容に絞ってまとめてみました。

次回は、世界で活躍する主なスタートアップスタジオのトピックや特徴などを書いていければと思います。


<筆者プロフィール>

大橋勇太 | Chief of Staff to the CEO

CEO高松直下で、共同事業の立ち上げ、ベンチャーキャピタル業務、グローバルパートナーとの業務提携等、Startup Studioとしての成長に資する戦略構築から実行までをリード。前職では上場を経験、上場後のグロースを経営企画として統括。英国在住中にはスタートアップの欧州進出支援、コンサルティングファームのInnovation Lab等に従事。常に立ち返る言葉は「My world is not your world」、迎合せず比較せず自分の基準で判断する。University of Cambridge修士(MBA)。