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大企業から、企業内起業家が続々生まれる。3年目を迎えたJR東日本「ON1000」、その好調の理由。

2018年9月にスタートした、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)によるグループ内新事業創造プログラム「ON1000(オンセン)」。quantumでは、プログラムパートナーとしてその立ち上げから毎年のプログラム実施までを並走、支援している。

quantumではここ数年、多くの企業の企業内起業家育成プログラムに携わっているが、ON1000はJR東日本グループ全体の7.5万人が対象という規模感に加え、「既存の事業の延長線上ではない“非連続”な事業アイデア」に募集を限定するなど、かなり尖ったケース。

にも関わらず、あるいはだからこそ、というべきか、ON1000は初年度から応募総数1000件を超え、1年目、2年目に審査を通過した事業アイデアがすでに事業化に向け順調にステップをすすめるなど非常に好調なプログラムになっている。

ON 1000がここまで好調に歩みを進めてくることができたのは何故か?また、3年目を迎えたON 1000が現在見据えている未来とは?

JR東日本のON 1000事務局より事業創造本部 新事業・地域活性化部門次長 佐野 太さん、事業創造本部ON1000プロジェクト 副課長 菊池康孝さん、同主席 飛鳥井 啓さん、同課員 小林拓馬さん、そしてquantumサイドで本プログラムを担当するベンチャーアーキテクトの森本智子、安藤 紘が、これまでの取り組みを振り返るオンライン座談会を行った。

左上より時計周りに、quantum 森本、安藤、JR東日本 佐野さん、小林さん、菊池さん、飛鳥井さん。

■ JR東日本というビッグカンパニーから、1000のアイデアが生まれるように

——まずは、ON1000(オンセン)のスタートから、改めて教えてください。

菊池 そもそもの始まりは、JR東日本が2017年に発足から30周年を迎えることでした。30周年を機に、「TICKET TO TOMORROW」というコミュニケーションスローガンを制定し、さまざまなチャレンジに取り組むことが社内で決まったのです。次の時代につながることを始めようとプロジェクトが組まれました。そのなかに、社内のアイデアを新規事業化するイノベーションプログラム、というものがありました。
まず2017年に外部のスタートアップ企業とともに新規事業を生み出すものが、「JR東日本スタートアッププログラム」というアクセラレーションプログラムとしてスタート。それから1年後、社内から新規事業を生み出すことを主目的としたON1000が始まった、という経緯です。

「TICKET TO TOMORROW」 スローガンロゴ

佐野 内情をお話しますと、30年も経つとどうしても社内に閉塞感が生まれるんですよね。採用広報では「新しいことにチャレンジできる会社」と打ち出しているのに、実情はそうとも言えない。やはり既存事業が巨大で、かつうまく回っていると、若手が何かを提案しても、チャレンジするよりまず目の前の仕事をやり遂げるよう求められてしまうんです。やる気あふれる若手の中には、歯痒い思いをしている人もいたでしょう。そうした人たちの声を菊池や、今日ここにはいませんが村上、諏訪という立ち上げメンバーたちなどが拾ってきて、「社内でアイデアを募集し、新規事業を生み出すプログラムをぜひやるべきだ」という機運が高まっていったんです。


——quantumをプログラムパートナーとして選んでいただいた理由は?

佐野 立ち上げメンバーの村上が、quantumの方と知り合いで、彼らが意気投合した、というのが実は最大の理由だったりします。プログラムパートナーというのは、単に優秀であるだけでは足りないものです。私はいろいろなコンサルティング会社などと付き合いがありますが、ビジョンに対して同じ絵が見えているかどうかはすごく大事だと考えています。主要メンバーの共感からquantumさんと組むことになり、その後、具体的にミーティングを進める中でquantumとなら同じ絵が見られる、と確信できたのが大きな要因だと思います。


——「ON1000」というネーミングについても教えてください。これはどのように決まったのでしょうか。

森本 最初は、先ほどから話題に上がっている村上さんが「ON-SEN」という名前を持ってきてくださったんです。名前の理由をスライドにまとめて、イラストまでつけて説明してくださった。

菊池 村上が「ON-SEN」と提案したところを、quantumさんに「ON1000」とブラッシュアップしてご提案いただいたんです。正直、「ON-SEN」のときはピンと来ていなかったのですが(笑)、ロゴマークとしてデザインされた「ON1000」を見た瞬間、「これはいい」と感じました。

森本 弊社からもいくつか案を出したのですが、最終的にJR東日本グループの深澤社長に採択いただいたのが「ON1000(オンセン)」でした。結果的に立ち上げメンバーの思いのこもった名前を冠していることは、私たちにとっても大きなモチベーションになっています。

佐野 まさに「ON1000」という名前は、quantumさんと弊社の共作ですね。「おんせん」という音感は、温泉地にも駅はたくさんありますから我々にとってなじみがある。でもちょっとベタな感じがするところを「1000のアイデア」にかけて、シャープにかっこよくまとめていただいた。これは、プログラムの成功に大きなインパクトをもたらしていると思っています。


■ 「まったく関係ない事業でいい」から生まれるアイデア

——初年度から、プログラムの名前通り1000を超える、1051件の応募がありましたね。

佐野 「ON1000」と名付けたことで、数字自体が大きなメッセージになったと考えています。件数がどんどん増えていくのを見て、経営陣からも「どうせだったら1000件いったらいいね」という反応がありました。経営陣としては狙い通りだったのかもしれません。しかし事務局としては予算的にも人的リソース的にも、200件分くらいしか処理できるリソースをもっていなかったのが本音です(笑)。

実は、JR東日本では、社内の新事業創造プログラム自体は2000年頃から何度か実施していたんです。でも、そこまで大きな事業を生み出すには至らず、そのまま休眠状態になっていた。再び新事業創造プログラムをやる、と決まったものの、事業創造本部としてはまた盛り上がりに欠けるものになったらまずい、とトラウマのように考えてしまうところもありました。でも、1051件という応募件数を見て「これはすごい」と、部内の雰囲気も一気に変わりましたね。

菊池 “現場の職員”からの応募が多かったのも印象的でした。駅などで勤務する職員も、新規事業に関心を持っているということがわかりました。視野が広いアイデアが多く、提案のレベルの高さに正直驚きました。
「ON1000」立ち上げ前のディスカッションで、新事業創造プログラムを成功させるには、とにかくアイデアの数が大事だ、という話をしていました。一発必中のアイデアを少数出してもらうのではなく、何でもいいからとにかくたくさん出してもらう。量は質を凌駕するというコンセプトがあったので、初年度にこれだけのアイデアが出たことはただシンプルにすばらしいと思いましたね。

安藤 この応募数の多さは、募集テーマを「既存事業の延長線上でない”非連続”な事業」と定め、「既存事業と関係ないアイデアでいい」と何度も伝えたことが大きかったと思います。佐野さんも、説明会やワークショップで何度もおっしゃっていましたよね。あと、「今の法律に合わないのであれば、法律をつくればいい」といった発言もあって、そのくらい新しいことにチャレンジしようという強いメッセージを感じました。

佐野 たしかに、「会社員ではなく、いち生活者として発想してください」というメッセージが参加者に響いた実感はあります。会社の課題ではなく、社会の課題を考える。参加者からは「このテーマだったからこそ、アイデアをうまく出すことができた」と好意的な声が多数寄せられました。

飛鳥井 実際、優秀賞を獲得したのは、「愛犬のための輸血ドナー募集・管理システム」「ワーキングマザー同士のマッチングサービス」など、直接鉄道とは関係ない事業案。形式的に「無関係でいい」としたわけではなく既存事業と“非連続”であることが選考においてもキーになりました。

佐野 私自身、20年以上この会社に勤めていますが、かつて事業アイデアを提案したとき、当時の上役に「今の仕事に関係あるの?」「それ会社の利益になるの?」といった突っぱね方をされることがあったんです。それが続いて、チャレンジする気を失いかけたこともありました。だから、「まったく無関係な事業でいい」と事務局、ひいては社長からも発信してもらうことで、アイデアの芽をつぶさないようにしたかったんです。


■ 継続と発展に欠かせないのは、ビジョンの共有

佐野 ビジョンの共有と、社内への周知という意味ではquantumさんが制作してくださった間欠泉が噴出するメインビジュアルもよかったと思っています。アイデアが爆発的かつ大量に生まれるイメージをスタイリッシュに伝えている。まさにON1000が目指していることが表現されています。こうしたものは、我々では絶対に作れないですね。

初年度、2018年の「ON1000」ポスタービジュアル

菊池 もともとquantumさんは、クリエイティブ面も含めて相談できるのが頼もしいと思っていました。新事業創造プログラムは、社内の機運をどう盛り上げるかということもすごく重要。その部分でこのビジュアルが大きな力を発揮してくれました。

森本 ありがとうございます。アートディレクターも喜ぶと思います(笑)。ポスターを各支社に貼る、フライヤーを各駅で印刷してもらうなど、我々が作ったビジュアルを積極的に活用していただけたのが良かったんだと思います。駅の現場などで働く方々は、ウェブサイトでの周知よりも、壁に直で貼られたポスターのほうが日常的に目に入る。そこから、関心を持って応募された方も多かったと思います。


——こうしたプログラムは継続が難しいケースも多い中、2年目、3年目とプログラムが継続されています。

飛鳥井 社員に話を聞くと、過去の新事業創造プログラムが休止になったことを気にしている人が意外に多いことに気づきました。ON1000が始まった当初はまだ様子見、という雰囲気の人たちも多かった。そうした人たちが、2年、3年とON1000が続いているのを見て、希望を見出し始めている。今年は「3年目、やりますよね?」という結構な数の問い合わせをいただきました!

森本 プロジェクトが継続している要因は、とにかく事務局の方々の熱意が大きいと思っています。JR東日本さんの場合対象者が7.5万人いるということで、応募期間などは周知から調整までとても大変だと思うのですが、日々丁寧に対応されています。事務局の現場担当である飛鳥井さんとは、私たちも本当に毎日のようにやり取りさせていただいていますよね(笑)。プロジェクトのネーミングから社長に関わっていただくなど、必要とあらば社長であろうが誰であろうがどんどん人を巻き込んでいけるフットワークの軽さも特徴的だと感じます。

飛鳥井 社長には最終審査にも参加していただきました。我々も社長に直接プレゼンする場なんてこれまでなかったので、どう動いてもらうべきか、という部分も含め、1年目はおっかなびっくりでしたね。事務局としては完全に手探りでした。でも、最終審査に通った方が涙を流して喜ぶなど、印象的な場面もたくさんありました。そうしたことが、事務局として取り組み続けるモチベーションになっています。

最終審査には深澤祐二社長(前列中央)も参加。

佐野 先ほども申し上げましたが、我々とquantumさんとでビジョンが共有できているのが大きいですね。森本さんも安藤さんも、このプログラムの目的とあるべき姿が頭の中にはっきりとあるので、こちらからお願いしなくても自発的に提案をいただけるんです。そして、これが最善ではなくまだまだまだ改善できるところがあると考えていらっしゃる。その認識している部分が共通しているので、2年目、3年目も続けていい関係でお付き合いできているのだと思います。

森本 そうですね。例えば、ワークショップの内容も、初年度終了直後に2年目からは「初心者向け」「2回目以降の人向け」で分けようという話をquantum内でして、すぐにJR東日本さんに提案しました。3年目となる今年は新型コロナウイルス感染拡大への対応として、世の中の状況を見ながら臨機応変に対応する形になりましたが、説明会やワークショップのオンライン開催を実施するなど、改善できる部分はどんどん変えています。

安藤 僕も森本も、ドリーマーでありつつ現実主義者。何かやってみたら、終了後にすぐ話し合って、良い点悪い点をまとめます。それを事務局の方に伝えると、すぐにレスをいただいてミーティングできる。社内でも、quantumとJR東日本さんの間でも、改善のサイクルを素早く回すことができているんです。それが、うまくいっている一つの要因なのかなと思います。


■ 社内のそこかしこで新規事業が生まれる風土をつくる

——今年度はON1000の3期目になります。JR東日本グループ内の雰囲気に変化はありますか?

菊池 ON1000事務局から発しているメッセージはかなり浸透してきていて、提案の内容や社員の雰囲気も良い方向に変わっていると感じます。ただ、初年度に比べて2年目は応募数が減ったので、今年度が正念場です。さまざまな方法で、社員の関心を高め、応募数を増やしていきたいですね。あとは、今年度中にON1000プログラム発の事業を本格的にローンチしていきたいです。

ON1000の第一期通過者による、ベビーカー貸出サービス実証実験の様子

佐野 私は個人的に「3年目マックスの法則」というものがあると常々考えているんです。1年目は思ったより良い結果が出て、2年目は少し下がって、3年目にどうなるかで今後の展開が決まる、というもの。3年目に1年目を超えるマックス値が出れば、今後もON1000は発展し続けることができると思います。今のところ、説明会の参加人数は初年度を超えたので、順調な滑り出しですね。

小林 3期目を迎えて、事務局では、直接社員とコミュニケーションをとる草の根活動がやはり大事なのではないか、という話が出ています。新型コロナウイルスの感染が広がる前は、各支社に出向いてON1000について説明するという「支社行脚」もやりました。それこそ5時間かけて秋田まで行き、20分説明して、また5時間かけて帰るなんてこともありましたね(笑)。グループ全社員が対象と言いながら、まだまだ首都圏から離れた支社にはこのプログラムが浸透していない部分もありますので、この行脚は手応えを感じました。
あとは、事務局で個別にプチワークショップを開催したんです。それも好評で、ぜひまたやってほしいとの声をいただきました。緊急事態宣言の発令などによりこうした直接出向く形のコミュニケーションは取りづらくなってしまいましたが、社内でもさまざまなコミュニケーションツールがあるので、それらを駆使して引き続き草の根的に周知していきたいと思ってます。

——新型コロナウイルス感染拡大の影響といえば、説明会がオンライン開催になると言う変化もありました。

森本 そうなんです。でも、5月7日のオンライン説明会には過去最高の400人弱の方が参加してくださいました。今回は、地方支社の方の参加も多く、事務局の方々が草の根活動をやってくださったこと、オンラインで開催したこと、両方の効果を感じました。新型コロナウイルスの拡大が収束した後も、オンラインと直接会って伝えることを併用して、相乗効果を出していけたらと思います。今回、移動や対面のイベントが制限されたことで、強制的にオンラインに移行したことは、結果的にとてもよかったのではないでしょうか。

オンライン開催したワークショップ。quantumの左達也(画面右上)が講師を務めた。

飛鳥井 そう思います。新潟支社の現場の社員が、「20時から休養時間になったのでちょっとでも参加したいからリンクを送ってください」と説明会の直前にメッセージをくれたんです。遠隔地からでも飛び入り参加できるのは、オンラインのメリットですね。

小林 これまでは子育て中の方だと、なかなか夜のワークショップに参加できないという声もありました。でも、今回のオンラインワークショップは家にいながら参加できるのですごくありがたい、と。オンラインになったことで、今まで届けられなかった層の方々に届けられているという実感があります。


——今後、ON1000はどう展開していくのでしょうか。

佐野 ON1000を立ち上げるときに、どういう状態になったら成功なのか、という議論をしました。そのなかで、小さくとも社会的インパクトの大きな事業をおこなう企業を100生み出すという「マイクロカンパニー100」という構想を打ち立てました。今のJRは鉄道事業という大きな事業がメインの「ビッグカンパニー1」という状態です。それが、今後は小さなカンパニーが集まって一つのグループ体を形成していくようになる、と考えています。それぞれが支え合い、新陳代謝を繰り返して、個性を発揮しながらJR東日本らしさを出していく。そんなイメージです。
最終的には、ON1000というプロジェクトが自然に解体し、社内のそこかしこで常態的に新規事業が立ち上がるようになったらいいと考えています。そうすると、二次曲線的に変化のスピードが上がっていくはずですから。

安藤 新規事業を生み出すのが当たり前。そうしたマインドを育むために、僕らもがんばっていきたいですね。社会の課題を解決するアイデアは自分に引きつけすぎると小さくまとまってしまい、大上段に構えすぎるとまとまらない。これは、ワークショップや応募のアイデアでよくある課題です。自分事を社会に広げ、ビジネスアイデアにまで昇華する。グループの全員がそんなふうに考えられるようになったとき、ON1000プログラムは完成するのだと思います。

森本 私も安藤も、quantumの中でそれぞれが事業を生み出して、日々いろいろなチャレンジをしている過程でもあります。(編集部注:森本はストーリーから選ぶ花束のブランドF. [éf]のfounder、安藤はブランドや企業に眠る音の資産をブランディングに活用するブランデッドオーディオレーベルSOUNDS GOOD®️のfounder。)私たちのみならず、quantumメンバーがまず新規事業を生み出し、様々な経験を先行してためていくことで、ON1000をはじめとする社内起業家育成プログラムのさらなるブラッシュアップや、メンタリングのクオリティ向上などにつとめ、今まで以上にみなさんの力になっていけたら。そう、強く思います。


<座談会出席者>

JR東日本
佐野 太氏  事業創造本部 新事業・地域活性化部門次長
菊池 康孝氏 事業創造本部ON1000プロジェクト副課長
飛鳥井 啓氏 事業創造本部ON1000プロジェクト主席
小林 拓馬氏 事業創造本部ON1000プロジェクト課員

quantum
森本 智子 ベンチャーアーキテクト シニアマネージャー / F. [éf] founder
安藤 紘 ベンチャーアーキテクト シニアマネージャー /SOUNDS GOOD®︎ founder